2023/09/12

学校におけるChatGPTの活用方法/昭和学院中学校・高等学校 教諭(理科・情報)博士(工学) 榎本裕介

はじめに

『ChatGPTはOpenAIが開発した人工知能モデルで、自然言語の理解と生成に優れ、対話や文章作成など幅広いタスクに利用されています。』という自然な文章はChatGPT自身に作ってもらいました。ChatGPTはGoogle Bard, Microsoft Bing Chatなども含む生成AIと呼ばれる人工知能システムの1つです。2023年7月には文部科学省からも生成AIについてのガイドラインが出されるなど、教育業界でどう扱ってよいものか議論の真っ最中です。今回は中高における生成AI、特に2023年9月現在で中高生が唯一利用可能なChatGPTについてその位置づけと活用事例を紹介します。

生成AIの意義をしっかり考えると、学ぶ意義を考えるきっかけになる

学校現場で生成AIの存在を危惧する理由は、端的に言えば「生徒がズルをするから」だといえます。しかしこれは、学校教育の本来の目的である生徒の成長ではなく、良い成績を取ることが目的になってしまっているがゆえの懸念ではないでしょうか。つまり、本来は生徒自身が成長したいと望み、成長のために課せられる課題のクリアを目指して懸命に努力し、試行錯誤を繰り返すことが望ましい学びの姿です。そして生徒が得られる成績は、その成績を得るまでの過程が良かったのか悪かったのか、どんな点が改善点なのか、次にどうすれば成長するのかを知るための重要な情報です。つまり、成長のための手段として教師に付けられる成績を活用するのがあるべき姿です。この位置づけを正しく理解した場合、課題のクリアのためにAIを使うのは、得られるはずの重要な情報を自ら捨てていることになります。ズルして得するどころか、大損をしているのです。ところが、多くの大人は「良い成績を取るために勉強しなさい」「勉強しないと成績が落ちる」といった、良い成績を取ることがまるで目的であるような印象付けをしています。その結果、良い成績を取ることを目的だと勘違いした生徒が、生成AIの機能を知り、利用権限を得てしまえば、目的のために生成AIを使うのは当然の結末です。すなわち、「勉強に生成AIを使ってあなたのためにならないからダメ」と大人が連呼してそれをどう守らせるかどうかの話ではなく、そもそも大人が印象付けている「良い成績を取るために勉強しなさい」が諸悪の根源であることを理解しなければならない話なのです。何かを学び、成長することは楽しいことであるはずなのに、成長することも楽しむことも忘れ、その手段であるはずの”良い成績”だけに固執して歪んでしまった教育の形を、生成AIの台頭によって見直すことができるのかもしれません。公式に未成年の利用が認められているChatGPTの存在は、歪んだ教育の形を直すチャンスになると考えられます(保護者の同意が必要)。

推理ものの小説や、最近流行りの考察が白熱するマンガを読んだりドラマを観たりするのは、その過程が楽しいからです。先のことが知りたいという欲求が湧くのは当然ですが、過程が抜け落ちて最終的なオチだけを知ってしまっては、途端に作品がつまらなくなってしまいます。学びにおいても過程を最大限楽しむためには、ChatGPTがもたらす回答は見ないのが正解なときもあることを理解する必要があります。

自動車免許取得のための教習所にて縦列駐車の練習があります。その際、「あのポールの何本目がそこの窓から見えたら一気にハンドルを切って」といったアドバイスをされました。そのアドバイス通りにやって教習所の技能試験はパスできました。しかし、得たかったものは技能試験での良い成績ではなく、どんな車種、どんな場所でも縦列駐車ができるスキルです。行き過ぎたアドバイスは成長を妨げるのです。ChatGPTは生徒のリクエスト次第で、どんな課題に対してもその行き過ぎたアドバイスをする役を簡単にこなしてしまうのがリスクの1つです。ただ、その行き過ぎたアドバイスを既に大人がやってしまっているかもしれません。これについても、生成AIに触れることで大人自身が生徒に与えるアドバイスの内容を考え直す良い機会になるでしょう。

文書・メール文面作成と、最終チェック

ここからは実務的なChatGPTを用いた業務効率化の話題を紹介します。ただし、前提として教師がメッセージを送る生徒や保護者もまたChatGPTの存在を知っていることを前提として、内容を考えることが必要です。すなわち、「この程度のありがちなメッセージ、どうせChatGPTで書いたんでしょ?」という穿った見方をする人もいるわけです。しかしながら、ありがちなメッセージが必要な場面は多くあります。たとえば、何かしらの校外活動のお知らせや、学校で使う道具の購入のお知らせ、アレルギーの調査をするお知らせなど、誰が書いたかはどうでもよいけど、正確に情報を伝え、ミスの無い文書が求められるシーンです。行き過ぎたマナーの徹底は生産性を落としてしまいますが、最低限のマナーすら守られていないような文書やメールが学校から届けば、信用を失い兼ねません。たとえば「高校生が学校の授業でChatGPTを使うために、教師から保護者の同意を得るためのメール文面作って」とリクエストすれば、ChatGPTは丁寧な言葉づかいの文章を作ってくれます。ただし、そのままコピペして送れる代物ではありません。ご丁寧に、そのままでは使えないんだよ、ということまで教えてくれます。状況に合わせて添削する必要があります。ChatGPTはリクエストした内容に従って回答を作るので、人間側で情報を出し損ねていると望んだ回答にはなりません。おそらく、人間の部下に同じプロンプトで文書作成の仕事のリクエストをしたとき、[学校名]が空欄の文書を作ってきたら上司はきっと怒ります。いずれは、AIがさらに進化して、不足しているであろう情報を聞き返してくれるようになるだろうと期待できますが、現時点でも原案作りにはかなり有効です。また、修正後にもう一度ChatGPTに文書を最終チェックしてもらうステップを挟むと、うっかり句点が2個打ってあったり、誤字があったりといったミス発見を迅速にやってもらうことが可能です。このような文書とは別に、学年通信だったり、学級通信だったり、他でもない今、目の前で活動している生徒たちについて保護者に現状を伝える文章や、学校・教員の個性を伝える文章を作成する場面があります。ChatGPTなどの生成AIの存在を前提とすれば「これはChatGPTで書ける程度の文章になっていないだろうか」と、伝えるメッセージの独自性・新規性について自問自答する力が教員側につくことが期待できます。

試験問題の作成(会話文・説明文・選択肢)と、最終チェック

こちらはChatGPTが生成した文章を利用した中学一年生の理科の定期考査の問題の一部です。

生徒目線では、こうした会話文などの形式の文章から必要なことを読み取り、空欄を埋めたり関連する問いを解いたりといった読解力が求められています。一方で教員はこうした脚本づくりのスキルが求められる時代になりました。こうした会話文作成はそれなりの労力がかかります。そこでこれをChatGPTに以下のようなプロンプトで命令をすると、会話文問題を作成することができます。

「以下の用語を必ず使った中学校1年生にわかるような花子さんと太郎さんの会話文を作って。用語:種子植物、被子植物、裸子植物、双子葉類、単子葉類、合弁花、離弁花、コケ植物、シダ植物。この用語を使うときは()で囲って強調しておいて。」

そして副次的な産物として現在のChatGPTは回答にまだまだ誤りがあります。私はそれをそのまま試験問題にしてしまいました。

Dが双子葉植物で、Eが単子葉植物です。単子葉植物の例にイチゴを挙げていますが、これは誤りです。私が試験問題作成あるあるだと思っていることとして、作成において難しいポイントの一つが「わざとらしくない誤った文章をつくる」ではないでしょうか。その分野の正しい知識を持っているがゆえに、「ちゃんと理解できていない生徒はどういう勘違いをしがちなんだろう」を具体的に想像するのはそれなりに深く思考する必要があります。実際に25行くらいの文章の中で3か所誤りの植物名を含んだ問題として出題したところ、正答率は5割程度でした。自分で作問していたら「こんなこと、みんな分かっちゃうから良い問題じゃないな」と切り捨てそうな案ですが、ChatGPTに促されて出題した結果、新たな気付きを得ることができました。

これ以外にも「説明文を書いて」とリクエストすれば会話文ではなく説明文として空所埋め問題が作れますし、シンプルに「解答が『裸子植物』になるような問題文を作って」みたいな1問1答問題も作ってもらえます。少なくとも理科に関しては、ChatGPTの回答そのものが作問として成立するレベルの精度になることはかなり稀です。しかし、原案をたくさん出してもらえることは作問の効率がかなり上がると考えられます。

少しのプログラミングの知識と合わせると活用方法はさらに広がる

最後に紹介するのは生成AIの得意分野の1つであるプログラミング関連です。実際に最近あった事例として、全部で100枚くらいシートがあるスプレッドシートファイルにおいて、全てのシートの特定のセルの値を削除したいというシーンがありました。やろうと思えば、シートを選択し、指定のセルを選択し、Deleteボタンを押すという作業を数十回繰り返すだけなので、30分程度、心を無にしてポチポチやれば実行可能です。しかし「スプレッドシートにはGoogle Apps Script(GAS)という連動したサービスがあること」「単純なセルの内容の削除はGASで可能であること」「すべてのシートで繰り返すもGASで可能であること」の知識だけあれば、ChatGPTにこんなプロンプトで命令して、得たコードをコピペし、実行ボタンでミッションが完了しました。それぞれの操作で必要なメソッドの綴りは覚えていなくてもできることがポイントです。3分もかかっていない作業でした。もちろん、普通にウェブで検索しながらメソッド名を調べれば自分で書けるコードですし、GASに慣れている人であれば何も見なくても書けるレベルのコードだと思います。しかし、ミスなく3分で書けるかと言われると、タイプミスをしたり、カッコを忘れたりといった人間特有のエラーが起こるかもしれません。大事なことは思考の選択肢として「これってChatGPTに聞いてみたら良い回答がもらえるのでは?」を持つことです。また、もらったコードを実行するだけでなく、1行1行の意味を理解しようという学ぶ姿勢が大切です。たった数十分の差ですが、ここで生み出されたゆとりある時間は、生徒と向き合う時間に使えるわけです。現代の中高の職員室では、何かの修行のような点検作業・確認作業を延々とやっている先生が必ずいます。1つでもそれらをChatGPTの力も借りて効率化し、教師が本来やるはずの教育に時間と労力を割きましょう

こうしたプログラミングだけでなく、たとえばExcelやスプレッドシートなどの表計算ソフトにおける関数のアイデアを聞いてみたり、ソフトの使い方を調べたりといったときに、ウェブで検索するより効率よく解決策が得られると考えられます。

おわりに

学校における生成AIの可否については、今後議論が進むものと考えられます。しかし、何より問題であるのは、これだけ社会の転換点だとニュースなどで騒がれているにも関わらず、一度も生成AIを体験することなく子どもにどう使わせるかどうか意見する大人たちです。ヒトが本来持つ、知的好奇心を失っていなければ「何それ?面白そう」と生成AIに飛びつくはずです。「良い成績を取るために勉強しなさい」と言い続けてしまった大人が、学校現場への生成AI導入をきっかけに教育のあるべき形が取り戻される未来を期待します。

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