ICT活用と教育現場の今。ICTツールの具体的な運用や今後の課題について徹底対談

公開日:2022/02/03
最終更新日:2022/06/27

GIGAスクール構想や新型コロナウイルス感染症拡大に対応したオンライン授業の開始などを背景に、日本の教育現場ではICTツールの活用が進められています。しかし、デジタル端末の購入や各種サービスの導入が進められる一方で、ICTツールをどのように使うべきか、運用面での課題を抱える学校も多いです。

そこで今回は、学校現場で抱える課題やその解決策などについて、とある中高一貫校のA先生が、昭和学院中学校・高等学校の榎本先生に、ICTに関する様々なご相談をした様子をお伝えします。

【生徒への指導】生徒が自制心を持ち、節度ある使い方をする環境を整える

A先生:
今日は榎本先生に、本校のICTにまつわる課題についてご相談にのっていだければと思っています。現状を簡単にご説明すると、生徒に一人一台の端末を用意してもらっており、授業やホームルームで活用しています。端末の種類は指定せず、スマートフォンを使う生徒もいればタブレットを持っている生徒もいます。
ICTツールは便利ですしこれから社会に出て行く生徒にとって必要なものですが、一方で様々なリスクもあります。そのバランスをどうとるかが難しく、私たちにとって大きな課題です。

榎本先生:
リスク対策は必要ですが、学校でのICTツール活用において、生徒に対して何かを制限するやり方はよくないと思います。禁止事項を作ると、なんとかして抜け道を探そうとするものです。
一番よいやり方は、「制限はなるべくかけず、端末を使ってどんなことをしたかわかるようになっている」という環境を作り、それを生徒にも伝えることではないでしょうか。誰かに見られていると思うと自制心が働き、こちらが強制しなくても自ら節度を持って利用してくれるようになります。

A先生:
無理に何かを禁止して見えないところで大きなトラブルを引き起こすより、生徒自身が適切な使い方をしてくれた方がよいですね。そうした環境を整えるために、御校ではどのような仕組みを作っていますか?

榎本先生:
チャットやメールなどのログを残して、後から参照できるようにしています。以前いた学校では、端末をChromebookに限定して、ブラウザの履歴削除とシークレットモードの利用をできないようにしていました。これによって、生徒はどんなサイトにもアクセスできる一方、こちらがいつ何を見たか確認できるので、不適切なサイトを訪れることがあまりありませんでした。
この「見られている」という感覚は非常に大切です。例えば社会ではSNSで不用意に投稿をして炎上してしまうような人がいますが、あれは「自分の投稿が世界中の人に見られる可能性がある」という意識の欠落が原因だと考えられます。まずは学校で「先生に見られる」ということをわかってもらうことで、失敗が許される範囲で失敗しながらリテラシーを高めることができます。

【教員への対応】ICT活用が苦手な教員には生徒を介したスキル向上を促す

A先生:
生徒に対して適切なICTの指導をするには、まず教員側のリテラシーを高めることが必要だと感じています。しかしスキルの習熟度は人によって差がありますし、学校によっては「一部の先生がICTで色々なことをやっている」という認識になり、デジタルなものに対してネガティブな教員と、対立構造が生まれるケースもあるようです。

榎本先生:
教員に対しては、こちらが教えようという意識を持つより、生徒からの働きかけを重視した方がよいでしょう。
例えば、ICTを活用している教員の授業では小テストをGoogleフォームでやっているのに対し、アナログな教員はすべてのテストを紙でやっているとします。その場合、生徒から「Googleフォームにしてください」という意見が出れば、その要望に応えようとやり方を覚えてくれるものです。
前任校では、生徒によって組織されたICT委員会を作り、生徒も教員も端末の操作やシステムについてわからないことがあればそこに問い合わせてもらう仕組みを作りました。デジタルが苦手な教員はICT委員の生徒に質問するようになり、自然とスキルアップにつながった実績があります。本校でも、次年度にはこうした生徒の組織を作る予定です。

【生徒・教員間のやり取り】早い段階からチャットでのコミュニケーションに慣れさせる

A先生:
教員の中には、仕事とプライベートをわけず24時間ずっと先生として生活している人も多く、よかれと思って深夜や早朝にメッセージを送ってしまうこともあり、課題となっています。

榎本先生:
それについては、生徒とやりとりする時間を決めておくことがおすすめです。本校でも以前は遅い時間にやり取りをする習慣があり、それに慣れた生徒が夜中に「明日って宿題ありましたよね」など送ってくることがありました。この状況はまずいと思い、ICT担当の部署で検討をし、メッセージに関しては、生徒・保護者・教員ともに始業から終業までというルールが作られました。

A先生:
たしかに、ルールを決めることで解決できますね。ほかに、生徒と教員のオンラインコミュニケーションを円滑化するコツはありますか?

榎本先生:
生徒が気軽にチャットを送れるように、入学直後から指導することが大切です。教員はこれまでの習慣で、つい「何かあったら職員室に来て」と言ってしまいます。これをやめて、何かあればまずメッセージを送ってと伝えてみてください。
前任校では、2020年度の新入生とはコロナによる休校で1学期は一度も直接会うことなく、オンラインでHRや授業をしていました。当然やり取りはメッセージが主だったので、生徒は「先生に用があったらメッセージを送るのは当たり前」という認識になり、休校が明けてからも上手に使いこなしていました。このように、初めからオンラインありきという意識を持ってもらえば生徒はすぐに順応してくれます。授業中に教員がしゃべっている最中にでも疑問に思ったことを気軽にチャットに書き込む生徒は、より深く授業を理解し授業を楽しんでいたように思います。

A先生:
生徒の意識については、そういったやり方が有効ですね。続いて、具体的なやり取りの方法についても伺います。
本校ではGoogle Classroomを使っており、ホームルーム用のClassroomと授業用のClassroomを作り、前者は担任と学年主任、後者には授業担当教員全員が入っている状態です。授業用を作ることで担任が生徒たちのテスト日程を把握できるのはメリットですが、通知も多く乗り入れ授業の問題もあるため、改善が必要ではないかと考えています。

榎本先生:
本校でもGoogle Classroomを導入しており、授業ごとに一つずつClassroomを作っています。すべての授業を一つのClassroomにまとめると情報が一気に届いてしまい、以前の情報を振り返るのが困難になると思うので、授業ごとがおすすめです。

A先生:
御校でもGoogle Classroomを使われているんですね。他にも多くの学校で使われていて、今や必要不可欠なツールになりつつあると感じます。

榎本先生:
そうだと思います。Google Classroomは今年からデジタル採点ツールの採点ナビ(教育ソフトウェア)と連携し、採点をしたらその日のうちに自動で返却が完了するようになりました。 スキャンできなかった文字の確認などのためにテスト後の授業で答案用紙は返却しますが、教科学習として生徒が見るのはClassroom上で個別に配布されるPDFだけです。
ほかにも授業支援アプリのMetaMoji ClassRoomとも連携するなど、Google Classroomが各種ICTのプラットフォームとしての機能を持ち始めていると思います。

【授業でのICT活用】無理にICT化するのではなく、何が生徒のためになるかを考える

A先生:
ICTツールは準備したものの、どうやって授業に活かしたらよいかわからず、上手く使いこなせてないという課題も抱えています。

榎本先生:
多くの学校で、その問題は起きていると思います。実際に「黒板に書いたことをノートに写してもらう」ことこそ正しいと考えている先生はおり、先生が書いたことを写して安心感を得る生徒もいます。
アナログの黒板を電子黒板に変えただけの授業をする先生も、複数の学校でいます。これではICTツールを活用しているとは言えませんね。
私の授業では、生徒には紙のノートをとらせています。とはいえ、今までのように板書を写させるすのではありません。授業の内容はあらかじめプリントして配布しておき、その周りに、授業中に考えたことや疑問に思ったことなどをメモしてもらいます。今までは思考を停止させとにかく書き写すだけだった生徒も、余裕が生まれて新しいことを考えられるようになることが、ICTの最大の利点です。
理想では書き写すという作業のなかで思考することが想定されている「板書を写す」という授業スタイルですが、実際問題は思考停止している生徒が多いのではないでしょうか。表示・意見収集などにICTを活用することで生徒が思考する余裕を生み出せると考えています。

A先生:
デジタル化することありきではなく、どうしたらICTを活用して生徒のためになる授業ができるかという視点が大切ですね。とにかく端末を使わなくてはと考えがちですが、本来は「教員として生徒と向き合っているかどうか」という根本的な問題につながる気がします。

榎本先生:
適切にICTを活用することで、生徒にとってのメリットが他にもたくさん生まれます。そのうちの一つが、生徒と双方向のコミュニケーションができるようになることです。
私は授業の最後に、その授業で学んだことや気づいたことをGoogleフォームで送ってもらっています。それを確認すると、授業内容への理解度が低い生徒や、誤った考え方をしている生徒がいるとわかるので、フォローアップをしています。

【今後の課題】ICT担当者の育成には技術とモラルの向上が必要

A先生:
本校では基本的に、私がICT業務を担当しています。他の人にもお願いしたいと思うのですが、どれも地味な作業ですし覚えてもらうのに時間がかかるため、人に振る難しさを感じます。ただ、長期的な視点で考えると業務の属人化は避けたいところです。
榎本先生は前任校でもICT担当を務められていましたが、現在の学校に赴任するにあたり、引き継ぎ業務は大変ではなかったでしょうか。

榎本先生:
前任校にはPC関係に強い広報担当者がいたため、その方に引継ぎをしました。おっしゃる通り、ICT業務は引継ぎが難しい分野です。仮に完璧なマニュアルを作ったとしても、ツールの仕様変更があればそれは無駄になります。
日頃からシステムを自分で使い、何か変更があればその都度調べて、情報をアップデートしていける人でないと難しいでしょう。そういった人を教員の中から探すのは大変です。
また、技術的なスキルだけではなく、高いモラルも求められます。権限によっては。悪意を持って全教員のログやメールの内容を閲覧することが可能だからです。

A先生:
モラルに関しては、担当者を複数人にすることで課題解決につながりそうですね。まずは複数の教員で業務を担当するようにして、そこからリテラシーやモラルを高めていこうと思います。
今後もICTを適切に活用するため、生徒や教員に対しどのような働きかけをするか考え続けていきます。本日はありがとうございました。

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