生徒組織『ICT委員会』の作り方とその役割/昭和学院中学校・高等学校 教諭(理科・情報)博士(工学) 榎本裕介

公開日:2021/12/24
最終更新日:2022/06/27

 

【連載】榎本裕介の “教育×Google Workspace” 最前線

Google Workspaceを教育現場の最前線で活用されている昭和学院中学校・高等学校 教諭(理科・情報)博士(工学)榎本裕介先生にお話を伺いました。
現場の先生方がかかえる、ICT活用についてのいろんな悩みに回答いただきます!

はじめに

小中学校で生徒にSNSのプライベートアカウントのパスワードを提出させていたことがニュースになりました。トラブルを防ぐという目的のために、逆に生徒に対して「パスワードは他人(保護者含む)と共有するもの」という誤った認識を与えてしまいがちです。どこまで大人が管理し、どこから子どもたちに任せるのかという点について、線引きを誤ると学校では甚大な教員の業務増になりかねません。そんな事態を防ぐために、また、各校で孤独に学校のICT化に向けて奮闘する先生方の強い味方として、本連載でも以前に紹介した「生徒組織としてのICT委員会」の設立のためのノウハウと、ICT委員会生徒が行う具体的なミッションを共有します。

まずは非公式組織である各クラスの係活動として活動を開始する

学校における生徒組織として、各校で多少の違いはあると思いますが生徒会という大きな組織の中に体育委員会、保健委員会、図書委員会といった委員会が設置されています。それとは別に、学級担任の裁量で英語係、国語係、配布係、掲示係などといった学級活動のための係を設定し、生徒にミッションを与え、それぞれの役割に責任を持って取り組むことを教育活動の一環に取り入れる学校が多いと思います。前者の委員会は生徒手帳にも明記され、長年教員をやっている先生方でも、委員会を新設した、廃止したといった経験はなかなか無いと思われます。それくらい、学校における生徒の役割は数十年間変わっていないのが現状です。ここにICT委員会を設立となると、誰に相談しても「前例が無いからわからない」と言われるのがオチでしょう。そこでまず、存在意義を周知するために実績をつくることが大事です。各担任が設置する係の中に「ICT係」を入れてもらうようお願いをしましょう。その際、委員会活動は公式に生徒が集合して連絡をする場が設けられていることが多いですが、担任裁量の係活動の担当者同士が連絡を取る場は無いかもしれません。そこはICT係ですから、当然その方面に強い生徒が立候補すると期待できます。情報共有はすべてGmailの「スペース(旧チャットルーム)」で済ませ、スマートな運営をしましょう。その上で、下記業務を実践して実績をつくり、学校全体として必要性を認識したら生徒手帳を書き換えるという一大イベントを起こすべく関係各所に働きかけるのが良策だと考えられます。

業務1:パスワードリセット対応

アカウント管理者を務める先生のもとへ「ログインできません」とクラス担任が生徒を連れて来たとき、パスワードリセットの必要すらなく、ただID欄に生徒証に記載された学籍番号を入れたら解決した、といった対応をしたことがありませんか?

GIGAスクール構想の波に乗るべく、多くの企業が様々なサービスで教育業界に売り込みをかけています。現場としてはそうして競争が起こると質が上昇するのでありがたい限りですが、一方でいくつものサービスを導入すると、同時に生徒が管理すべきID・パスワードがどんどん増えていきます。Gmailアドレスで登録し、「パスワードを忘れた方はこちら」のようなリンクが用意されているサービスであれば教師が介入することなく生徒自身でパスワード忘れを解決できます。しかし、独自IDとパスワードでログインし、その管理が教師にしかできないサービスや、基本としているGmailのメールアドレスそのもののパスワード忘れは生徒本人には解決できません。また、「ログインできません」というトラブルの何割かはパスワード忘れではなく、アカウント情報を忘れていただけだったり、別サービスのアカウントで入ろうとしていたりすることがあります。また、前述の「パスワードを忘れた方はこちら」をクリックするだけで解決することもあります。その切り分けを担任に任せるのは少々ハードルが高いです。この一次切り分けがうまくできれば、アカウントの管理者が手を煩わせる必要はありません。これをICT委員会生徒が対応し、本当にリセットが必要な対応だけをチャットでアカウント管理者の教員に伝える制度が整えば、迅速・確実な対応ができるようになります。不慣れな担任より、日々学習サービスにログインする側にいるICT委員会生徒のほうが対応がスムーズなのは明らかです。本当にパスワードリセットが必要だと分かれば、ICT委員会生徒が必要な情報を管理者にチャットで伝え、リセット後の一時パスワードを該当生徒に伝える仕事もICT委員会生徒に任せましょう。ただし、手間を減らそうとパスワードリセット権限まで生徒に付与するのは危険です。教師のアカウントのパスワードをリセットして不正ログインする可能性がある以上、そこは超えてはいけないラインとして考えておきましょう。

業務2:生徒端末のトラブル対応

家電量販店のトラブルに対する電話オペレーターは症状を聞いたらまず「コンセントを一度抜いて指し直してみてください」と伝えるそうです。実はコンセントが抜けていただけで、故障でもなんでも無いケースが多々あるからだそうです。このとき、「コンセント抜けていませんか?」と言うと反感を買うので「挿し直して」というのがコツらしいです。

生徒の持つICT端末の故障対応の一部は、そんなレベルのトラブルシューティングで解決することがあります。これもそのノウハウを担任に任せるのではなく、ICT委員が担います。例えば、PCに慣れた人にとって、アプリの良からぬ挙動を解決しようと思ったら、細かい分析の前にとりあえずアプリを再起動したり、端末本体を再起動したりするでしょう。そういった「まずやってみる対処法」で解決しない場合になって初めて、専門知識を持った教師が登場すれば十分です。ソフト面の故障対応の一次対応もICT委員会生徒が担います。

ハード面のトラブルについても一次切り分けは担任ではなくICT委員会生徒のミッションにすると効率がぐっと上がります。例えばキーボードの故障をある生徒が訴えた場合、本当にキーボードのハード故障であるかどうかを調べるには、別アプリで調べたり、どのキーが不具合を起こしているのかを調べたりする必要があります。そうした症状を正確に把握することで、故障対応業者への情報共有がスムーズになり、修理の納期や費用などの見積もりの助けにもなります。これを故障端末を抱える生徒本人に主張させると事実がよくわからなくなりがちで、そこに担任が入って情報伝達をするとさらにややこしくなります。それをノウハウを共有したICT委員会生徒が行えば万事解決です。修理対応には金銭が関わりますので、最終的な保護者への連絡などは教師がやることになりますが、その前の一次対応を生徒に任せることがちょうどよい線引きだと考えられます。

業務3:授業中のトラブル対応

授業中に教師はたいてい一人ぼっちです。職員室で様々な校務を行う際にPCで操作に躓いたときには同僚に質問することができますが、授業を行う教室では自分しか頼れません。と、思っている教師は非常に多いです。教師と生徒という立場上、生徒に「誰か助けて」と頼るのは難しいかもしれません。そこで、ICT委員会という公式な立場で授業中の教師を含めたICTトラブルの対応を任せられた生徒がいれば、教師も気軽に「ICT委員会の人、ちょっと手伝って」と頼りやすくなります。実際に、生徒と教師で異なる端末を使っていたり、各種サービスで教師アカウントと生徒アカウントでの挙動が異なることがあるので、教室に行って初めて気付くことは色々あります。きっと真面目な先生からしたらすべて生徒用端末&アカウントで検証してから授業に臨むべきだ!と叱られると思いますが、その労力を教師がかけるより、ICT委員会生徒に任せたほうがより授業内容についての準備に時間を割けます。プロジェクタの接続がうまくいかない、Classroomでの投稿設定を間違えた、などなど、いざ授業で予定と異なる状況になったとき、どの教室に行っても頼れるスペシャリストがいると思えば、新しいツールに挑戦する教師は増えるはずです。特に複数の学校を兼任する非常勤講師の先生にとっては、ツールの混在によってかなり負担が大きくなるケースが増えると思われます。その負担の増加から授業クオリティの低下が起これば、結局不利益を被るのは生徒です。そうならないよう、生徒の力で授業のクオリティを上げましょう。

おわりに

これまでICT委員会生徒の存在で教師が助けられる事例を紹介してきましたが、実は最も大きな収穫は担当した生徒の成長です。ICT委員会に所属し、様々なトラブル対応を経験したした生徒はきっと家庭においても家族のPCトラブルをあっさり解決し、社会に出てからもITに強い人材として活躍できることでしょう。その経験を積んで頼られるようになると、今度は先回りしてトラブルを予見できるスキルが身につきます。また、自分自身には無い視点で「ここに躓くのか」という気づきをたくさん得る経験ができます。ITに興味を持ち、モノづくり、ソフトウェアエ開発の世界では、エンドユーザーの声は貴重な開発材料です。そうした声に耳を傾ける機会はトラブルを解決した人だけが持てる財産です。日本中どこの学校にも図書館があって図書委員の生徒がいるように、文房具の一つとしてPCがある学校であれば、ICT委員会があるのが当たり前になると様々な問題が解決し、生徒の成長にもつながらると期待しています。

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