iPadの黎明期から学校教育での活用を始め、今でも先進的な学習を実践している広島城北中・高等学校。今回は、iPadをなぜ導入したのか、活用を通じてどのような生徒を育てたいと考えているかなどを、飯盛先生と奥迫先生に伺いました。
― 御校でのiPad導入経緯を教えてください。
2010年に初代のiPadが発売されたときから、未来を担う生徒を育てる学校として、ICT機器を活用する機会を持たなければならないと思い、導入しました。これからの時代、ICTスキルやリテラシーを身に着けないと社会で太刀打ちできないと感じたことが大きな理由です。
当時の使い方はネイティブ教員が担当するDiscoveryという名前の総合的な学習の時間において、Keynoteを使い外国の料理やスポーツについてスライドを作成し、英語でプレゼンテーションするなどしていました。
2010年ごろにはこうした授業をしている学校は全国的にも少なく、学内外から高い評価をいただいておりました。その後も指導内容にアップデートを重ね、現在に至ります。かつての生徒と比べると、ハキハキと自分の考えを説明できる生徒が増えたように感じます。おそらく、Discoveryでの学びが様々な場面で活かされているのだと思います。
― その一方で、ご苦労もあったのではないでしょうか?
ICTツールには光の面と影の面があり、SNSがいじめの温床になっているなど影の面があるのも事実です。そのため、「iPadを持たせたらどうなるのか、失敗したときに困るのは生徒だ」という懸念もありました。
― 当初は、不安を持つ先生方もいらっしゃったわけですね。
はい、何をするにしても賛否は存在します。思い切ってやって、問題が生じたら生徒と一緒に考える。紆余曲折を経ましたが、そんな方法を本校では採りました。先生方にも無理やり使ってもらうことはせず、まずは使いたい人から使ってみて、少しずつ輪を広げていった形です。
教員の反応としても、コロナ禍のオンライン授業でiPadが役立ったこともあり、「こういったツールがあってよかった」という意見が多数聞かれるようになりました。
― 不安はありつつも、思い切って導入に踏み切ったことが功を奏したのですね。
はい。今となっては、生徒の大多数がスマートフォンを持っています。そのため、こういうツールをコソコソと使うのではなく、「正しく使うとはどういうことか」を学ばねばなりません。つまり、「Good Userを育てる」ことが大切です。
Good Userとは、ICTツールに使われるのではなく、能動的に使える人です。意味もなく動画を視聴し続けたり、ゲームに興じすぎたりするのは、コンピュータに使われている状態だと思います。
― 先生方にiPad活用の研修などは行いましたか?
はい、新しいデバイスやサービスを導入するときには、全員で集まって研修を行っています。それ以降はまとまった時間をとるのではなく、職員会議の最後にログインのやり方だけ確認するなど、短い時間の勉強を繰り返しています。
ICTに長けた教員にはさまざまなアプリやサービスをどんどん使ってもらい、その先生があまり得意ではない教員を支援することも多いです。いきなりあれもこれもやってもらうのではなく、まずはiPadの画面をプロジェクターに写すような初歩的なことから始めます。今では、全教職員がTeamsを使ってペーパレス職員会議をしたり、普段の意思疎通をしたりできるようになりました。
― 生徒さんへの研修はいかがですか?
最近の生徒はスマートフォンを持っている子が多いですし、基本的な操作は理解していることが多いです。本校ではクラスに2~3人ずつICT委員を選出しており、生徒間で教え合うことはもちろんのこと、教員が使い方に迷ったときやデバイスの準備が必要なときにも手伝ってくれます。
私たちが教えるのは、使い方やサービスの内容よりも、いかにGood Userになるかということです。これは突然達成できるものではなく、粘り強く指導をしていくことが大切だと思います。
指導においては、きちんと使えるのが当たり前という雰囲気を醸成しています。本校の生徒は素直な子が多く、こちらがきちんと伝えれば、自分なりに考えて、道を正そうという姿勢を持ってくれます。
― 御校では具体的にどのようにiPadを使っていますか?
各授業で様々な使い方をしており、十人十色ならぬ十人百色だと思います。Garagebandをつかってオリジナルの曲を作ったり,iMovieで動画編集をしたりして,自分の考えや思いをさまざまな形で表現しています。私の授業で言えば、実験の様子を動画で撮影して、ロイロノートでまとめて発表する取り組みをしています。以前まで、実験結果はその場限りのもので、文章や図で書きとめることが精一杯でした。
しかしiPadがあれば、実験結果を何度でも見直せます。動画をスロー再生することで新たな発見が生まれることもあります。また、授業中にもICTリテラシーを高めるよう工夫しています。
― どのような工夫でしょうか?
実験の様子を撮るにあたり、後ろに人が映らないよう注意しています。これは肖像権やプライバシーの問題があるからだと理由も一緒に説明すると、生徒たちは納得して取り組んでくれます。
他にも、芸術鑑賞でクラシック音楽を鑑賞する前にiPadを使っている生徒に対して、コンサートで電子機器を使っていると録音していると誤解されてしまう恐れがあるので、電源を切ることがマナーだと説明しました。目の前で起こっている、あるいは起こりそうな事象をいかに教材化するかが、鍵になることだと思います。
― iPadを導入して感じたメリットについて教えてください。
iPadなどのICTツールを使うことで、時間と距離を縮められます。普通なら行けない場所を擬似的に訪れたり、生徒同士の意見をすぐに共有できたりします。また、今まで記録できなかったことが写真や動画で保存できますし、表現手法の幅が広がることを実感しました。さらに、生徒がiPadをどう使うか自ら考えて行動する力も身に付きました。
― 何か自ら考えて実行した事例はありますか?
生徒が自分たちでムービーを編集し、卒業式の日に流したいと言い出しました。そこで有志のメンバーが集まり、教員は編集するPCの貸し出しくらいしかせず、あとは生徒だけでやり切りました。自分たちでメンバーを集めるところから能動的に行動していて、成長した姿を見ることができました。
― 最後に、iPad導入を検討している学校の先生にメッセージをお願いします。
iPadは導入して終わりではなく、むしろ導入してからが始まりです。担当者は、いろいろと苦労もします。しかし生徒と一緒に考えながら、その学校の形を作っていけばいいと思います。
少しのトラブルもありますが、生徒と向き合って話し合えば、どうすれば自分が進む道を正せるか、理解してくれます。誘惑に負ける経験もしながら、一歩立ち止まって行動できる人間になっていかなくてはいけません。そういう気持ちが芽生えれば、iPadを学習支援ツールとしてきちんと扱えるようになります。
所在地:広島市東区戸坂城山町1番3号
TEL: 082−229−0111
http://www.hiroshimajohoku.ed.jp/school/
設立:1961年
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