【iPad導入事例】iPadが「文房具の一つ」といえるまで浸透

品川翔英中学校・高等学校様

2020年度から共学として新しいスタートを切った品川翔英中学校・高等学校。
中高の他、幼稚園と小学校を抱える品川翔英では、iPadを使ったICT教育を進めている。今回のコロナ禍を受けて一気に導入が進んだ経緯や、これからの日本のICT教育に必要な要素を柴田校長先生、熊坂先生、竹内氏、青木氏に伺った。

コロナ禍を受けてICT改革が一気に前進

御校でのiPad導入の経緯について教えてください。

当学園では3年ほど前からICT教育の一環としていくつかのデバイスを導入し、現在は各学校でiPadを所有しています。中学1年生と高校1年生は一人一台使っている形です。

導入するデバイスの選択肢はノートパソコンやタブレットなどいくつかありましたが、当時iPadはコストが抑えられ、起動も速いのが魅力的でした。また操作も手軽で、プロジェクターとのリンクが簡単にできたのも決め手の一つです。

どのように導入が進んでいったのですか?

コロナ禍で一気に活用が進んだのですが、初めに4月にロイロノートの研修会を教員に向けて行いました。予定を前倒しして5月の連休後にはiPadを配布できたので、分散で生徒を登校させてGoogle IDとロイロノートのIDを発行しました。

最初は生徒とのやり取りをロイロノート経由で始めましたが、次にGoogle Meetが使えるようになり、オンラインで顔を合わせられるようになりました。そこで朝礼を始め、出席確認をして、授業・課題に取り組むという流れとなりました。次第にコロナ禍が落ち着き、通常登校を再開したのは2020年5月末頃です。

コロナ禍でのiPad導入は大変な部分もあったと思います。

教員の研修から生徒への説明、運用を4月、5月で一気に進めたので慌ただしかったですが、ある意味コロナがあったからこそ、ここまで大胆に運用を開始できたと思います。また導入の際、生徒はスマホなどを使い慣れていることもあり、説明にそれほど時間をかけずとも使えるようになっていきました。

iPadが文房具のように当たり前のアイテムとして浸透

iPadは具体的に、どのように活用されていますか?

ロイロノートやGoogle Classroomは生徒とのやり取りやコミュニケーションに欠かせない存在です。他には、数学のアダプティブラーニング教材であるQubenaを授業で使ったり、オンライン英会話を活用したりしています。またWord EngineやXReading、スタディサプリも使っています。

ロイロノートは多くの学校で使われている、基本的なアプリですね。

はい、当校では課題の配信や提出にロイロノートを使っています。実は初めにロイロノートを、次にGoogle Classroomを導入したので、生徒が使い慣れたロイロノートで色々な連絡事項を送ってくるようになってしまいました。そこで2つの活用用途をしっかり説明して、今はきちんと連絡はGoogle Classroomを使うように定着しています。

その2つを使うようになって、メリットは何かありましたか?

ペーパーレスが進んでいます。朝の段階で、HRで何をするか、持ち物は何かなど情報を出しています。また、今まで家庭に紙でお送りしていたお便りもHPに載せるようになりました。

授業中だけでなく、多くのシーンで活用されているのですね。

はい、学校が休みの時でも使っています。例えば先日、台風で学校に登校が難しくなったのですが、休校にはしていません。各クラスその日の時間割に沿って課題を配信したり、Google Classroomを使って授業したりと、学習を止めることなく過ごすことができました。

また、コロナによる自宅学習期間が終わったとはいえ、まだ密は避けなければいけません。そのため全校集会ができないので、一部の学年だけ集めてそれ以外の学年の生徒は教室でオンライン配信される様子を見るなどしています。

受験に向けてもiPadを使っていらっしゃいますか?

はい、生徒の面談をオンラインでやっています。Google Meetを使って、進路についての保護者との面談を行いました。推薦系の入試ではオンライン面接もするようになるので、今からオンライン慣れしておくことは大切だと思います。

そして今後、中学生は校外学習に出始めます。そこでiPadを持って行って、現地で調べ学習もする予定です。終了後はiPadで学んだことを発表してもらいます。

学校生活のあらゆる場面で使っているのですね。

そうですね。ICT化については3年前から動き始めていましたが、なかなかスムーズには進んでいませんでした。でもコロナ禍を経て、かなり浸透しています。今やiPadは文房具の一つで、教員にとっても生徒にとってもあって当たり前のアイテムです。

生徒はiPadを忘れると授業に参加できないので、充電をし忘れることもなく毎日きちんと持ってきてくれています。

海外の事例も学び先進的な活用を目指す

iPadを使うメリットは何だと思いますか?

なかなか前に出て発言できない生徒が、iPadを使うことで自己表現できるようになりました。また、学校に来にくい生徒も課題を提出することで、授業に参加できています。

反対に、何か課題はありますか?

現場レベルで言えば、Google Classroomの数がかなり増えてきていることです。クラブや委員会、生徒会ごとにグループがあるので、そのチェックが煩雑になっています。特に文化祭の時期は大変で、確認していないメッセージがどんどん溜まってしまいました。

また大局的には、もっと広い範囲で活用したいと考えています。今は、本当の意味で「うちはiPadを使っています」と言える段階ではありません。

それはどういう意味でしょうか?

これは本校だけの問題ではなく、日本の教育界の意識改革が必要なのです。例えば今から20年前、他学園にいたころ電子ボードを導入したのですが、その時外部から「これは電子紙芝居にすぎない」と言われたことがあります。要するに、模造紙に書いていたことをそのまま電子ボードに映しているだけということです。

現在の本校のiPad活用も、黒板などでやっていたことをiPadに置き換えているだけになっている部分が否めません。これは、日本の教員はまだまだICTを使った授業に慣れていない上、海外の先進的な授業を学ぶ機会もないからです。

まだ限定的な活用しかできていないということですね。

はい、本校ではこれから海外の事例も学び、差別化を図っていきたいと思っています。そのためには、やはり誰かが切り口を広げないといけません。特に校長やそれに近い人が言い出すことが大切でしょう。

ある程度のデメリットも抱えて進めていく

これからiPadを導入する学校へ、何かアドバイスはありますか?

まず学校として何をしたいかを決めて、その中でどうICTを取り入れるかを検討するといいと思います。そもそも教育は数字で成果を測れない、難しい世界です。だから数字ではなく、「生徒にとってわかりやすいか」「生徒のやる気を引き出せるか」という観点で考えると進めやすいですし、その考え方を内部で共有する必要があります。

御校ではそのすり合わせができているように感じます。

当校の教員は、ものすごく素直な人が多いからだと思います。そのおかげでコロナ禍でiPadを使う準備をするときも、かなり時間がない中で一気に進めることができました。

スピード感を持って取り組めたのですね。

はい。多くの学校では新しいことを始めるとき、「それはやりたくない」と障壁となる教員がいるものです。しかし当校の場合は「生徒の喜ぶ顔が見たい」という共通の認識を持てていたので、それがパワーとなり進めることができました。

ではこれから導入される学校も、そうした部分を大切にする必要がありますね。

はい、そしてICTならではの問題に目を配ることも必要です。全てオンラインで済ませようとすると先生がなかなか教室に足を運ばなくなり、コミュニケーション不足となって教員の指導を聞かなくなる危険性もあります。

またオンラインではカメラをオフにしてしまえば顔が見えません。そのカメラの向こうで何が起きているのか、想像力を働かせる必要があるでしょう。

他にも気を付けるポイントはありますか?

ICTは、生徒がなりたい自分になれるためのツールだと考えるといいと思います。そういうポジティブな成果を求めるために、ある程度のマイナスポイントを抱える覚悟も必要です。

例えば当校では、iPadを活かすためにスマホも自由に使わせています。それを「ゲームをするかもしれない」などといって全て禁止にすると、メリットを十分に活かせません。

本校もこういったネガティブな部分に注意は払いながら、海外事例の勉強などをして今後もっとiPadを活用できるように工夫していきたいと思います。

インタビューにご協力頂いた、品川翔英中学校・高等学校の先生方
(左から)体育科教諭/中高一貫部長 熊坂 尚子 氏
校長 柴田 哲彦 氏
事務室 竹内 靖 氏
ICT 情報担当 青木 稔 氏

品川翔英中学校・高等学校

所在地:東京都品川区西大井1-6-13
TEL: 03-3774-1151
http://shinagawa-shouei.ac.jp/
設立1932年

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