多様化する学びと教育の転換
大学を取り巻く環境が大きく変化しています。
少子化による18歳人口の減少に加え、社会人学生や留学生の増加など、学ぶ人々の背景や目的が多様化しています。
学びの形も、講義中心からアクティブラーニングや反転授業、オンライン教育へと広がり、学生が自ら学びをデザインする時代になりました。
こうした変化のなかで、教員が学生一人ひとりの学びの過程を的確に把握し、支援することはこれまで以上に必要になってきています。
同時に、社会全体ではAIやデータを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、教育分野でも「データに基づく教育改善」が強く求められるようになりました。
これまでの経験や感覚に頼った教育運営から、学修データを活用して学びの過程と成果を科学的に把握する教育への転換が進んでいます。
その中心的な手法として注目されているのが、ラーニングアナリティクス(Learning Analytics:LA)です。
2010年代から広がるLA研究と制度的支援
LAの研究は2010年代に入って急速に広がりました。2011年にはアメリカ教育工学会(AACE)で「Learning Analytics and Knowledge(LAK)」国際会議が創設され、国内でも日本教育工学会などで関連研究が増加しました。
当初は学習行動の可視化やドロップアウト予測が主なテーマでしたが、現在では学修支援・教育設計・カリキュラム改善など、大学教育の質向上を多面的に支える研究領域へと発展しています。
政策面でも、この流れを後押しする制度整備が進んでいます。
文部科学省の「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(2018年)」では、「学修者本位の教育」や「学修成果の可視化」が明確に示され、大学には教育の質をデータで説明する責任が求められています。
また「教学マネジメント指針(2019年)」では、教育課程の実施状況を把握・分析し、データに基づいて改善を行うPDCAサイクルの確立が求められました。
さらに、大学設置基準の一部改正(2019年公布、2020年度施行)においても、「教育課程の編成・実施に係る点検及び評価」(第27条の2)として、学修成果の把握や分析を踏まえた継続的改善が明記されています。これにより、学修データの活用が制度的にも大学運営の一部として位置づけられました。
LAが生み出す新しい教育文化
このように、
・学生の多様化と主体的な学びの拡大、
・教育の質保証と説明責任の強化、
・DXによるデータ活用の加速、
という三つの潮流が重なった今、LAは大学教育の改革を支える重要な仕組みとなっています。
LAは単なる「データ分析の技術」ではありません。
学生自身が自らの学びを振り返り、教員がそのデータをもとに支援を行い、大学全体が教育の質を高めていくための新しい教育文化を生み出す手段です。
データに基づいて学びを理解し、支援し、改善していく——そのサイクルの中心に、LAが位置づけられています。